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広島地方裁判所 昭和51年(む)9064号 決定

主文

広島地方裁判所が昭和四八年一二月二〇日被請求人に対する恐喝被告事件(同庁昭和四八年(わ)第六七六号)についてなした刑の執行猶予の言渡は、これを取り消す。

理由

一、本件請求の要旨は、「被請求人は、昭和四八年一二月二〇日広島地方裁判所において恐喝罪により懲役一年(三年間保護観察付執行猶予)の判決の言渡を受け、右判決は昭和四九年一月五日確定したが、被請求人は右保護観察の期間内に遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いから、保護観察所長の申出に基づき右刑の執行猶予の言渡の取消を求める。」というにある。

二、そこで本件取消請求書添付の一件記録及び被請求人に対する覚せい剤取締法違反、傷害被告事件控訴記録(広島高等裁判所昭和五一年(う)第三一四号事件)並びに本件口頭弁論における被請求人の供述を検討すると、被請求人が保護観察に付されたのちの経過として大略次のような事実が認められる。すなわち

(一)  被請求人は、昭和四八年一二月二〇日本件保護観察付執行猶予の判決の言渡を受けると即日広島保護観察所に出頭し、保護観察官から保護観察中の注意事項についての説示を受け、これに対して遵守事項を守ることを誓約し、住居届をしたが、その際特に「仕事を怠けないでまじめに働くこと、夜遊びの時間、回数を減らして酒を慎しむこと、悪友との関係を断ち、新しい家庭を築くよう努力すること、短気を慎しみ、けんかをするような場所に近づかないこと」を注意されたこと、

(二)  しかるに被請求人は届出住居から三回住居を移転したにもかかわらず所定の届出を怠るなど保護観察官、担当保護司との連絡も絶えがちであり、そのため保護司等において被請求人の近況を充分把握できない状態であつたこと、

(三)  更に、被請求人は当初一応土工人夫などとして就業していたものの長続きせず、その後はバーホステスをしていた内縁の妻の収入に頼るなど無為徒食の生活を送つており、他方、昭和五〇年一月ころからは暴力団共政会常任理事沖田孝の事務所に出入りし、間もなく右共政会に正式入会するとともに右沖田の輩下の者として行動していたこと、

(四)  その間被請求人は、

1  昭和四九年三月二日の深夜数名の者と共謀して広島市内の繁華街で傷害事件を犯し、右犯行により同月二五日広島簡易裁判所において罰金六万円に処せられたこと、

2  昭和五一年八月二五日には覚せい剤の使用、所持と傷害事件を相次いで引き起こし、右各犯行により同年一一月一九日広島地方裁判所において懲役八月(未決二〇日算入)に処す旨の実刑判決の言渡を受けたこと(なお、この判決に対しては被請求人において目下広島高等裁判所に控訴中である。)

が明らかである。

三、以上の諸事実に照らせば、被請求人が執行猶予者保護観察法五条各号所定の遵守事項を遵守せず、その情状重きときにあたることは明白であるから、被請求人に有利な事情を考慮しても刑の執行猶予の言渡を取り消すのが相当であり、刑法二六条ノ二第二号、刑事訴訟法三四九条の二第一項により、主文のとおり決定する。

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